由緒

往昔より日向地藏尊と崇め奉り世人安産を祈り疫癘厄難の息滅を請して霊験を蒙るもの後を絶へす 明治拾二三年頃廢佛毀釋の悪風傳るや時の槇村知事は石佛狩りなる暴令を出して没収につとむ 此の尊もその難を免れす 村の信者等驚きて俄に抱へてつりて僻難せり 数年の後事止み還り安置し給ふ その後五十餘年の今日此の地域より一小礫に護字の墨記されたるを探し得更に数斗の小石に一々経文字の記されたるが掘出されさてはと古老の言を含みその暴令當時に散失せし一字一石大乗妙典塔を探し出せり 在所には相當の石品を換へ贈りぬ 今は之れも此處に還着し給ふ 依て信徒有志者相集り地藏尊堂を修理し大乗妙典塔下に一字一石の経文礫を龕し繞らすに玉垣を以てし石階を疂み植樹風致清浄ならしむ 塔背に知る安政五年十月建立陽泉亭松村德翁居士書寫 功德の信意にも相叶ひたり 之れ偏に列名信者の熱誠の致す所なる 尊は永く古の信者等を影向し在す 大乗妙典とは恐くは此の大功德も蓮花と倶に地上に涌出開敷し給ふを尓云ふ

法末　善弘記

　昭和四年十月十日