三十三所觀音

塵添壒嚢鈔　天文元年(1532)

	塵添壒嚢鈔	現在
1	那智（ナチ）ノ山ノ如意輪堂（ニヨイリンタウ） 如意輪也 紀伊國牟婁ノ郡ニアリ 面七間奥ヘ十間ノ堂也 願主裸形聖人ト云也。	1.青岸渡寺
2	那智ノ山ノ千手堂[1] 千手 五間四面ノ堂。願主禪戒上人ト云リ。	廃絶
3	金剛寳堂紀三井寺（キミイテラ）ト云 等身十一面紀伊國名草（ナクサ）ノ郡ニアリ 願主誦光上人昔ハ。三間四面今ハ五間四面ノ堂ト云	2.紀三井寺
4	粉河寺（コカハテラ）等身千手紀伊ノ國那賀（ナカ）ノ郡ニアリ。願主大伴（ヲホトモ）ノ孔子古七間四面堂也 寳亀元年庚戌建立	3.粉河寺
5	施福寺槙尾（マキノヲ）寺ト云 千手 和泉國ノ和泉郡ニアリ 欽明天皇ノ御願行滿上人建立。三間四面ノ堂也。	4.施福寺
6	南法華寺壷坂寺ト云。丈六 千手 大和國��市（タカシ）ノ郡ニアリ 願主道基聖人八角ノ堂ト云云。	6.壷阪寺
7	龍蓋（リウガイ）寺岡寺（ヲカノテラ）ト云丈六 如意輪 十一佛ト云。大和國��市（タカシ）ノ郡ニアリ 願主弓削（ユゲ）ノ道鏡（タウキヤウ） 三間四面礼堂作ト云云	7.岡寺
8	長谷寺初瀬寺（ハツせテラ）ト云丈六十一面大和國��市郡ニアリ 願主道明德道上人古ハ。三間四面。今ハ七間奥ヘ九間礼堂作ト云云。	8.長谷寺
9	南圓堂（ナンヱンダウ）興福寺ニアリ。丈六八臂（ヒ）ノ 不空羂索 弘仁四年ニ建立 光仁天皇ノ御願ト〓[2]藤原冬嗣（フユツク）弘法大師ヲ相語テ。草創シ給者也。	9.興福寺　南円堂
10	准胝堂三尺ノ 准胝 上ノ醍醐ニアリ。聖寳僧正ノ建立	11.醍醐寺　「准胝堂」焼失[3]
11	正法寺岩間寺ト曰。等身ノ 千手 近江ノ國勢（セ）多ノ郷ニアリ 上ノ醍醐ノ東ニ當レリ。㤗[4]澄法師ノ建立。一間四面ノ堂也。	12.岩間寺
12	石山寺丈六ノ 如意輪十一佛 近江ノ國志賀ノ郡勢多ノ郷ニアリ。聖武天王ノ御願七間四面也。良弁ノ建立	13.石山寺
13	如意輪堂等身ノ 如意輪 三井寺南ノ院ニアリ。智證大師ノ建立	14.三井寺
14	六角堂（カクタウ）頂法寺（チヤウホウシ）ト云。一搩手（シヤクシユ）半（ハン）ノ金銅 如意輪 太子七生ノ御守佛洛陽ニアリ。聖德太子ノ御建立	18.六角堂
15	清水寺八尺ノ 千手 東山音羽（ヲトハ）山ニアリ。願主田村ノ將軍延鎮法師ノ建立延暦十七年七月二日ニ立 以上皆南向堂。	16.清水寺
16	行願寺革堂（カウダウ）ト云。八尺ノ 千手 洛中ニアリ。行圓上人寛弘二年ニ建立。東向ノ堂也。	19.行願寺
17	六波羅密寺八尺 十一面 空也上人ノ建立村上ノ御宇天暦五年ニ草創	17.六波羅蜜寺
18	觀音寺等身 千手 洛外今熊野（イマクマノ）ノ奥ニアリ。弘法大師御作	15.観音寺
19	菩提寺穴太寺ト云。三尺 正觀音 金色丹波國桑田郡ニアリ 三間四面ノ堂也。	21.穴太寺
20	良峯寺八尺 千手 革堂ノ本尊ノ二ノ御衣木西山ニアリ。願主道圓源筭[5]兩上人ノ建立ト云云。	20.善峯寺
21	総持寺三尺 千手 長谷觀音ノ御作也。又五寸ノ十一面同キ御作始メ一夜ニ造給試ミノ觀音ト云也。接津[6]國島下ノ郡ニアリ 願主山陰ノ中納言仁和二年丙午五月十五日本尊ノ造功畢ヌ。其ノ間三年也堂舎ハ寛平二年庚戌二月四日父ノ中納言第三囬[7]ノ追福ニ當テ。子息七男七女同心〓[2]建立ト云云。或ハ試ミノ觀音ヲ用ル説アリ。	22.総持寺
22	勝尾寺等身ノ 千手 接津[6]國豊島ノ郡ニアリ。願主浄遍上人。	23.勝尾寺
23	仲山寺 十一面 聖德太子御建立。攝津國ニアリ。	24.中山寺
24	清水寺丈六 千手 播摩[6]國ニアリ。實ハ丹波接津國三箇（カ）國ノ界ト云云。聖德太子ノ御建立。	25.清水寺
25	法華寺等身 千手 播磨ノ國印或猪南郡ニアリ。願主空鉢上人五間四面ノ堂也。	26.一乗寺
26	如意輪寺書寫山ト云。一尺六寸 如意輪 願主性空上人五間四面ノ堂ト云也。	27.圓教寺
27	成相寺 則ナリアヰト云。 一搩手半ノ 千手 丹後ノ國與佐（ヨサ）ノ郡ニアリ。	28.成相寺
28	松尾寺等身 馬頭觀音 同國ニアリ。網人ノ建立七間四面ノ礼堂作ト云云。	29.松尾寺
29	竹生島等身 千手 近江ノ國ノ淺井（アザイ）ノ郡ニアリ。行基ノ御建立。昔ハ三間四面今ハ五間四面ノ堂ト云云	30.宝厳寺
30	華嚴寺谷汲（タニクミ）ト云。延暦年中ニ。此地ヨリ油（アフラ）湧出（ユシユツ）ス。是ヲ汲テ灯明ニ用ル故ニ。尒[8]云。七尺 或七尺五寸 十一面美濃ノ國佐美郡ニアリ。豊然法師ノ建立五間四面ノ堂也。	33.華厳寺
31	觀音寺三尺ノ 千手 近江ノ國神﨑ノ郡ニアリ。聖德太子ノ御建立三間四面ノ堂也。	32.観音正寺
32	長命寺三尺 聖觀音 近江ノ蒲生ノ下ノ郡ニアリ。面七間奥ヘ六間ノ堂也。	31.長命寺
33	御室戸寺二丈二尺 千手 山城國宇治ノ郡ニアリ 光仁天皇ノ御願寛空上人ノ建立五間四面ノ堂也	10.三室戸寺
	是參詣（サンケイ）ノ次第也。就二此ノ次第ニ一異説是多キ歟。 或ハ爲シ二長谷ヲ初ト一或ハ御室戸ヲ爲レ初ト長谷ヲ爲レ終ト。 或説ニ云只便路ヲ爲レ本ト。 不レ論二前後ヲ一ト云云。 此記ハ久安六年庚午長谷僧正參詣ノ之次第■也。 或夜長谷僧正ノ夢ニ。於テ二琰魔王宮ニ一。日本ノ生身ノ觀音卅三所ヲ註セル記録ヲ見ルニ則今ノ日記也ト云云。 ≪以下、略≫

[1]	塵添壒嚢鈔では那智山の如意輪堂（現・青岸渡寺）と千手堂を別の２ヶ寺として、現在の５番札所葛井寺が抜けています。 千手堂は那智滝の近く飛瀧神社内にありましたが、明治初期の神仏分離で廃されました。
[2]	〓は［〆］や［メ］に似た［為］の省画で、「シテ」と読む片仮名です。
[3]	平成２０年(2008)８月の落雷による火災で准胝堂が焼失し、現在は下醍醐の金堂に准胝観音が安置されています。
[4]	［㤗］は［泰］の異体字です。
[5]	［筭］は［算］の異体字です。
[6]	「接津」「播摩」はすべて原文のまま表記しています。
[7]	［囬］は［回］の異体字です。
[8]	［尒］は［尓(爾)］の異体字です。

更新日：2023/05/30