三十三所観音 拾芥抄　慶長年間(1596-1615)
拾芥抄 現在
1 六角堂 金堂三尺如意輪聖徳太子 18.洛.六角堂
2 中山 千手吉備大臣 洛.「吉田寺[1]」廃寺　／吉備観音は金戒光明寺へ
※ 寛文８年(1668)
3 河崎 正觀音壹演僧正 洛.「感応寺」廃寺　／河崎観音は清和院へ
※ 清和院に合併
4 清水寺 丈六千手延鎮大師 16.洛.清水寺
5 法性寺觀音堂 洛.法性寺
6 神光寺 他.神光院？[2]
7 醍醐如意輪堂 等身聖豪内供[3] 11.醍醐寺　如意輪堂[4]？
14.三井寺　如意輪堂？
8 同石間 等身千手泰澄大師 12.岩間寺
9 捴持寺 白檀三尺六寸十一面千手 22.総持寺
10 勝尾寺 攝津國等身千手 23.勝尾寺
11 六波羅蜜寺 八尺十一面空也上人 17.六波羅蜜寺
12 神呪寺 他.神呪寺
13 長谷寺 金色二丈六尺十一面  8.長谷寺
14 元興寺 南京 他.元興寺
15 東大寺法華堂 丈六千手道基上人[5] 他.東大寺　法華堂（三月堂）？
 6.壷阪寺？
16 同西金堂[6] 他.興福寺　「西金堂」焼失
※ 享保２年(1717)
17 粉河寺 等身千手大仲孔子古  3.粉河寺
18 伊紀三井寺[7]  2.紀三井寺
19 真木尾 和泉等身千手弘法大師  4.施福寺
20 谷汲 美濃號華嚴寺 33.華厳寺
21 那智如意輪堂 一搩千手  1.青岸渡寺[8]
22 天王寺 他.四天王寺[9]
23 幡磨清水 丈六千手光善上人 25.播州清水寺
24 成相 一搩千手聖觀音 28.成相寺
25 長樂寺 十一面或云准〓[10]宇多院御特雙林寺北祇園東 洛.長楽寺
26 乙訓良峯寺 山城八尺千手源算上人 20.善峯寺
27 善盖寺[11] 丈六土佛大和國髙市郡興末弓削法皇造立之後末焼  7.岡寺
28 藤井寺 河内丹南郡號剛林寺三從位藤井給子等身千手  5.葛井寺
29 近江石山寺 丈六土佛二臂如意輪朗辦爲聖武御願 13.石山寺
30 同觀音寺 神崎郡三尺千手絹笠山不知願主 32.観音正寺
31 同袋懸 他.観音寺／袋かけ観音[12]
32 穴太寺 丹波本尊樂師號菩薩寺伹觀音記之願主宇治城宮城 21.穴太寺
33 － － －
挍合或人本之處合點廿二箇所附合
河崎 中山 長樂寺 法性寺 観音堂 神光寺 神咒寺 元興寺 西金堂 天王寺 紀伊三井寺 近江袋懸 等無之[13]
此外
金剛寶寺 等身十一面爲允上人[14]  2.紀三井寺
仲山寺 同聖德太子 24.中山寺
長命寺 三尺聖武内大臣 31.長命寺
准〓[10]堂 三尺聖寶僧正 11.醍醐寺　「准胝堂」焼失
行願寺 八尺千手道縁上人 19.行願寺
千手堂 御室戸二尺一寸不知願主 10.三室戸寺
如意輪 一尺六寸性空上人 27.圓教寺
法華寺 字壷坂寺  6.壷阪寺
松尾寺 馬頭等身若狭國海人 29.松尾寺
觀音寺 等身千手山本左大臣 15.今熊野観音寺
竹生嶋 示現上人建立千手等身等注之河﨑已下廿一所除之若同所異名欤將又有異説欤可尋决 30.宝厳寺
注）寺院名の前の数字は現在の西国三十三所の札所番号、"洛"は洛陽三十三所の札所、"他"はその他の寺院。
灰色：拾芥抄の説明文で他の本と不一致と書かれている寺院。
[1]吉田寺は金戒光明寺の西方の吉田中山にありました。 「吉備観音」は吉備真備が刻ませた千手観音で吉田寺の本尊でしたが、寛文８年(1668)に吉田寺が廃寺となり金戒光明寺へ移されました。
[2]林蕙如氏の論文「日本における巡礼の成立－中世の三十三所巡礼から見る－」❐では、星尾山神光寺（和歌山県有田市星尾）の可能性が示されていますが、前後が洛中の寺院であることから神光院の可能性が高いと考えました。
[3]醍醐寺に如意輪堂は存在しますが、聖豪内供は他資料で三井寺の願主とされていることから、醍醐寺如意輪堂と三井寺如意輪堂を混同している可能性が考えられます。
[4]醍醐寺は聖宝理源大師が上醍醐の山上に小堂宇を建立し准胝・如意輪の両観音像を安置したのに始まり、延喜７年(907)に醍醐天皇の勅願寺となってから准胝堂・如意輪堂・五大堂・薬師堂などが建立されました。 現在の札所は准胝堂ですが、同一とみなしました。
[5]東大寺法華堂（三月堂）の本尊は不空羂索観音で、「大和名所記（第二　添上郡）」の東大寺法華堂の項❐に以下の記述があります。 「拾芥抄に此の堂の丈六の千手観音は道基上人つくられしよしあれども内陳（＝内陣の誤記？）には見えず。」
南法華寺（＝壷阪寺）の開基が道基上人で、本尊が丈六の十一面千手観音坐像であることから、東大寺法華堂と南法華寺を混同している可能性が考えられます。
[6]原文を素直に読めば東大寺の西金堂となるのですが、そもそも東大寺には西金堂がみあたりません。 他資料で興福寺西金堂の記述があることから、興福寺とみなしました。
[7]中間説明に「紀伊三井寺」とあるように、著者は明らかに「伊紀」を「紀伊」のつもりで記述していますが、金剛寶寺＝紀三井寺であることを知らなかったようで、他本との相違点として金剛寶寺をあげています。
[8]明治時代の廃仏毀釈の際、熊野三山のほとんどの仏堂が廃絶しましたが、熊野那智大社の如意輪堂だけは破壊を免れ、のちに信者の手で青岸渡寺として復興しました。
[9]他資料に天王寺金堂とあり、また前後の霊場との位置関係から、救世観音を金堂に祀る四天王寺と判断しました。
[10]〓は［𦙠(U+26660)］［月弖］で、この文字は［胝］の異体字です。
[11]原文を見たまま「善盖寺」と表記します。
[12]雨森観音寺は天正元年(1573)の兵火と明治１２年(1879)の火災で焼失し、現在の観音像は明治１４年(1881)本堂再建の際に延暦寺から遷されたものです。 脇手の一対を頭上で組み合わせその上に小座仏を戴く清水寺式千手観音像は、その姿が果樹の袋かけをする作業の手つきに似ていることから、「袋かけ観音」と呼ばれています。
[13]他本（恐らく通常の西国観音霊場）と比較して２２ヶ寺が一致、１１ヶ寺が不一致と書かれていますが、前半部分には３２ヶ寺の説明しかなく、明らかに１ヶ寺不足しています。 また後半の他本情報を加えても、西国観音霊場の9番・興福寺南円堂と26番・一乗寺（法華寺）に該当しそうな寺院が見当たらず、これは脚注[3][5]のような情報の錯綜が原因と思われます。
[14]紀三井寺の開山は為光上人で、「爲允上人」は「爲光上人」の誤記と思われますが、原文通り記載します。

更新日：2017/11/17