日向地蔵堂

 日向(ひむき)地蔵尊は安産と厄除のご利益があるとされています。

 昭和4年(1929)に書かれた日向地蔵尊縁起によれば、日向地蔵尊像は大乗妙典塔とともに、陽泉亭松村徳翁居士の発願で安政5年(1858)に建立されました。 廃仏毀釈の影響で破壊の危機を迎えましたが、地元民の篤い信仰のおかげで守り抜かれ、大正2年(1913)に地蔵堂の新築、昭和4年(1929)に地蔵堂の修理と大乗妙典塔や敷地の整備が行われました。

 地蔵堂の右手前には京都市の南区・区民誇りの木❐に指定されているクロガネモチがあります。 昭和のお堂はこの木の根に押し上げられて全体が傾いていたため、平成30年(2018)の修復時にお堂の位置を2m程後退させてクロガネモチから離しました。
 → 修復前の地蔵堂を見る

 名前の由来に関しては何も情報がありません。 日当たりのよい場所で太陽に向かって建つ地蔵尊像の姿から、自然発生的に日向地蔵の名前が付いたのではないかと考えています。
(追記)近くに「影向(かげむき)地蔵」があることが分かりました。 南東を向いた日向地蔵と北西を向いた影向地蔵とが一対になって名付けられたようです。

 日向地蔵尊は高さ(蓮台を含む)155cmほどの石像ですが、よく見ると像本体と一体に彫られた蓮台の下にさらに大きめの蓮台があります。 大きさがややアンバランスなことから、本来別々のものが継ぎ足されたような印象を受けます。 地元では「地蔵尊は近くの川を上流から流れてきた」との言い伝えがあり、もしかするとこの言い伝えと蓮台の謎が関係しているかもしれません。

 地蔵堂には現在2つの額が掲げられています。 ひとつ(写真下左)は日向地蔵尊の由緒と昭和4年に修復を行った際の有志者の名前(『日向地蔵尊縁起』参照)が書かれた奉納額で、もうひとつ(写真下右)は地蔵菩薩を称える言葉(=真言)が書かれた真言額です。

真言額の内容
[表記][読み方][意味]
訶々
訶 尾娑
摩曳 娑
おん かか
か びさん
まえい そ
わか
(地蔵菩薩真言)類いまれな尊いお地蔵さま
遊化六道ゆけろくどう六道に出かけて人々を教え導いてください。
抜苦與楽ばっくよらく衆生の苦しみを抜いて福楽を与えてください。

 地蔵堂修復の際、真言額をお堂から取り外したところ裏面にも文字が見つかり、調べた結果、書かれているのは仏説延命地蔵菩薩経の一部であることが分かりました。

真言額の裏面の内容
[表記][訓読]
若未来世
一切衆生 恭
敬供養 延命
菩薩 不生疑
惑 現世所求
皆令満足 後
生浄土 得無生
もし未来世の一切衆生。

延命菩薩を恭敬し供養したてまつり。

疑惑を生ぜずんば。現世の所求皆満足せしめ。

のちには浄土に生じて無生忍を得せしめん。

 かつて地蔵堂内に置かれていた道祖神や大日如来らしき小石仏群は、現在、お堂の外の屋根付きの場所でお祀りしています。 お揃いの赤い涎掛けを付けてもらって、喜んでおられるように見えるのは私だけでしょうか。

更新日:2024/07/22