吉祥院天満宮詳細録　第七章 p198 - 204
｜第七章 (2/8)｜
（九）菅家聖廟暦伝巻之下　干中
　四年七月釈道賢（日蔵上人又御岳上人と号す）於二金峰山一剋二三七日一絶レ食不レ語修二蜜供一 八月一日午時修法之間忽舌燥気塞欲二呼レ人相救一 又思己称二無言一 豈得レ出レ声如レ是思惟気息既絶怳至一一[1]窟前一有二沙門一手執二金缾一傾出二瓶水一与レ賢飲其味甘美沙門曰我是執金剛神也 常住二此窟一護二釈迦遺法一 我感二上人勤修一故忽往二雪山一取二八徳水一救二師渇一耳又有二数十天童子一 以二種々餚饍一盛二蓮葉一棒持侍立 沙門曰此諸童者二十八部衆也 与レ賢食食己一大徳和尚来伸二左手一執二賢左手一上二西岩一其岩積雪数千丈漸至二山頂一 一切世界皆在二下面一山頂平坦純金為レ地光明照映北方有二金山一山中有二七宝高座一和尚坐二其座一 和尚曰我是牟尼応化蔵王菩薩也 此処曰二金峰山浄土一汝余算無レ幾早競修レ善賢白言我不レ愛レ命但求二仏道一 然創二一道場一未レ成以レ此為レ念不レ知安有二増延一乎 蔵王取二短札一書二八字一賜レ之 其文曰日蔵九九年月王護 蔵王曰汝在二山谷一勤二修練一得二延命一居二里閈一 必短促日蔵者所レ修尊法也 依レ法故可レ改二汝名一 九九者余命也 年月者長短也 王護者加護也 汝亦以二護法菩薩一為レ師重受二浄戒一時五色光照二山中一賢白言此光何祥 蔵王曰今大政威徳天来也 須臾之間西方空中千万人至儀衛律如也 宛似二王者之郊礼一也 其衆奇形異貌或如二金剛力士一或如二雷電神夜叉羅刹一甚可レ怖類各持二器伏弓矢矛戟一太政天[2]与二蔵王一語己面欲二帰去一 顧レ賢曰将二此人一見二我居一何如蔵王許レ之使三レ賢乗二一白馬一行数百里疾如レ風至二一大池一 池中有二大島一広百余里中有二方壇一 壇中有二蓮華台一 台上有二宝塔一 塔中安二妙法蓮華経一 塔東西壁県二両部大曼茶[3]羅一 其塔厳麗不レ可レ言也 北有二大城一城門禁衛甚厳又多大政天語レ賢曰我是上人本国菅丞相也 忉利天帝字レ我呼二日本大政威徳天一 我讒配時非レ不レ動レ心 我主二国土一切疾病災難一事 我欲下悩二君臣一傷中人民上 又思以二我生前悲泣之涙一化為二大雨一浸二本国一為[4]水海一 経二八十四年一成二立国土一為二我住城一 然此国普賢竜猛流二伝蜜[5]教一之地也 又応化諸聖以二悲願力一借二名明神一游二住諸処一覆二護衆生一 彼諸名神常慰二諭我一我又愛二重仏教一 故不レ成二レ医害一 但我十六万八千諸眷属暴悪鬼神等随レ処興レ災我尚難レ禁我受二神慰一味二法楽一 故昔日怨慰少息耳賢曰我国人民倶称二火雷神一尊重礼敬猶如二世尊一 何有レ懟乎 大政天曰国俗以レ我為二仇讐一誰敢尊敬又火雷神者我三使者火雷気毒王者也 非二我名一也 我在世時所レ歴官位有二人居一レ之我起二害意一是昔怨之甚也 而今立二一誓一遺二本邦一上人伝之普属流布若人作二我形一称二我名一慰勤尊重我心擁護若人聞二上人言一信受崇奉我亦不レ為二如上人害一 賢問二大政天一曰金峰菩薩賜二短札八字一又少承二注釈一而未レ委願天解レ之天曰日者大日也 蔵者胎蔵也 九九者八十一也 年者八十一年年[6]也 月者八十一年也 王者蔵王也 護者守護也 言帰二命大日如来一修二胎蔵法一者延命八十一歳即蒙二蔵王加護一耳又如説修行延為二九九年一無懺懈怠促成二九九月一是菩薩所レ謂長短也 急替二本名一可レ恊一[7]尊旨一賢反二金峰一 陳二上事一 蔵王曰我令三汝向二彼城一者使レ知二世間災難之根本一也 又有二満徳天一語レ賢曰彼大政天十六万八千眷属作二毒害一者天下善神不レ能二遮止一 延長八年夏藤清貫平希世逢二雷震一而死者彼火雷気毒王之為也 亦崇福法隆延歴[8]擅[9]林等諸大寺之焼災皆是第三使者之所レ作也 如レ是諸悪神滅法害生皆昌泰帝独受二其殃一 譬如二衆流之宗一レ海耳乃至暴風疾雨疫癘時行逆間起並是彼眷属悪神之所レ発也 然金峰八幡及我満徳天堅執不レ許故不二自恣一金峰菩薩令三賢又見二地獄一看二一鉄窟中一有二四人一其形如レ炭一人衣覆レ肩三人裸蹲二赤灰上一 獄卒告曰是汝本土之君臣也 時有レ衣人招レ賢曰我是大日本国王金剛覚王之子也 受二此鉄窟之苦一彼太政天神以二怨心一焼二仏寺一害二有情一其所レ作罪報我皆受レ之彼大政天者菅丞相也 宿世福力今為二大威徳天神一乃自説二五罪一曰我受レ苦無量汝帰二本国一奏二国玉[10]及宰輔一造二一万卒都婆一技[11]二我苦厄一賢凡過二十三日一蔽息矣其後奏二禁闕一朝廷勅二上都諸寺一如二其言一也』
（一〇）北野文叢紀文部天神記下　干中
『其比金峰山に日蔵聖人と申人金剛蔵王の引導にて、 三界六道見ぬ所もなかりけり。 承平四年四月廿六日より、 笙の岩屋に籠りて行いける程に、 八月朔日午刻に頓死して、 十三日にぞ蘇り給いける。 其程金剛蔵王の善巧方便にて、 天満大自在天神のおわします所より始て都卒内院、 炎魔王宮以下また六道を見めぐるに、 地獄と都卒との苦楽の有り様、 聖教に説ところもたがわず、 天満天神を太政威徳天とぞ申ける、 御ゆきの像は国王にも勝れたり、 御姿などは申さんに付ておそれあり。 侍従眷属の異類かぞえ尽すべからず或は金剛力士のごとし、 或は雷神鬼王のごとし、 或は夜叉羅刹のごとし、 御住所は極楽国土の荘厳の如し、 池の中に島あり、 其上に蓮花あり花上に宝塔を安ぜり、 其中に金字の法華経あり、 東西に両部の曼茶[3]羅をかけたり、 其北一里ばかり下りて大城あり、 荘厳美麗にして光明照耀す、 是太威徳天の御住所なり、 日蔵を召して仰られけるは、 我初は思いき、 流れし涙を湛えて日本国を浸し、 大海となして八十年を経て後国土を建立して我住居とせんと思いしかども、 仏教弘まれる国なり、 我教法を愛する心深し、 顕密聖教の力にて、 昔の怨心十分一はやすまりぬ、 其上に住[12]古如来法身大士悲願力のゆえに、 名を明神にかりて、 国々にみち給えるが、 各智力を尽して我をすかしなだめ給えば、 巨害をいたさざるなり、 但我眷属十六万八千の悪神等所にしたがいて、 損害をいたす事は我なお留めがたきなり、 日蔵此事を承て、 畏て申す様、 日本国に火雷天神と申て、 とうとくおもくし奉る事十号世尊の如し、 何ぞ悪心おわしますべきと申し給えば、 太政威徳天仰られけるは、 誰人か我尊重せんや、 国々こぞりて我怨敵なり、 仏にならざらん程は、 何れの時か此恨を忘るべきや、 但人信心あつて、我形像をあらわし我名号を称えてねんごろに祈り請ことあらば、我感応をたれん事響の声に従うがごとくならんとぞ示し給いける。 日蔵聖人蘇りて、此由を悉く御門に奏し申ければ種々の善根を営みおわしけり。 凡国土の災変は皆天神の御眷属の所為なりと蔵王は仰せられける云々』
[1]「一一」は返り点「二」の誤記と思われます。
[2]「大政天」と「太政天」が混在していますが、原文通りです。
[3]「荼」の誤記ですが、原文通り表記します。
[4]返り点「二」の記載漏れと思われます。
[5]現在は「密」の字を使いますが、昔は「蜜」も使ったようです。
[6]「年年」で正しいのかわかりませんが、原文通り表記します。
[7]返り点「一」は「二」の誤記と思われます。
[8]現在は「暦」の文字を使いますが、昔は「歷（歴）」も使ったようです。
[9]現在は木偏の「檀」の字を使います。
[10]「王」の誤記のように思われますが、原文通り表記します。
[11]もしかすると「拔（抜）」の誤記かもしれません。
[12]「往」の誤記と思われますが、原文通り表記します。「往」の異体字として「住」が使われているのかもしれません。

更新日：2021/02/11