吉祥院天滿宮詳細錄 第九章 p261 - 269
|第九章 (5/7)|
(三一)和歌及狂歌の一部
詠翫菊延齡和歌正六位下太宰大典 朝臣正文
あきことにさくとみしより手に摘て老ぬくすりの白きくのはな
詠春風かをる同前 朝臣正文
ふくからに野山のもかつてよもに長閑き春のはつかせ
題不知詠人不知
三千とせになるてふ桃のことしよりはなさく春にあひにけるかな
右府保良
おもひきやなれし雲井を跡に見て入さの月の出せんとは
右府飯足
くもりなくてる月影もいかにせむ今むら雲のかゝりそめては
右府秋津子
咲みてる思ひや天にけふるらんきり嶋山にもゆる丹躑躅
吉祥院秋津子
あかねさす日影にほひて天滿る宮み久しき朝ほらけかな
吉祥院麿
荒御魂いつき鎭めし光そといまの世までも仰ぐいやちこ
吉祥院天滿宮の櫻西麿
けふ來ずは散なむ花の眞盛を見るさち給ふ吉祥の宮
神のうへにかをりてもちる白のきえぬは梅の花にぞ有ける
吉祥院天滿宮の櫻麿
咲出てこゝたく人はつとひけり天滿雲とみやしろの花
西麿
飛梅の心つくしも時を得ておもひのまゝに咲にほふらん
旅客麿
とりあへず天滿御神うけたまへ作ゆくこのたひの
石原飛螢方卵
つかみとる寳の山か石原に黃金の砂をまけるほたるは
題不知澄水
菜の花の御供の日にはとりわけてとふほとにうる蝶五郞餅
吉祥院天滿宮の花飯足
降つもるとも見えつ雲とみつげにも自在の神垣の花
輝國獅子丸
影てらす國のいさをは知られけりなみたにかゝる月の御
社頭榊
とことはにかはらぬ色の眞榊やさかへ久しき神の廣前
年內早梅活靜
めでなます神に手向ん端かきに來るはるまたでさくやこのはな
さしこもるかたへの櫻さきそめしむくらの門もあけてまちぬる
吉祥院宮庿法樂 夕顏榮堂
わか庵のかきねにはへる夕顏の花もてけふのに捧げん
吉祥宮庿法樂 山居春曙榮堂
山住の朝そあくれは嵐にもかすみて見ゆる春の曙
吉祥宮庿法樂 晴後榮堂
けふいくる晴間を待てなかむれは空にひとしき水の色かな
麿
あたなりとうたはんぬまに八重櫻花のちれるも心あるかな
題不知幸子
霜ゆきと千とせの後もかはりねとふりにける世のなほそこひしき
鳥羽歸雁壬子
夜をこめて雁は歸れと今朝はしも鳥羽田の水はにこらさりけり
白大夫香夢
ありかたき君の惠は九つの牛のひとつの毛にも及はす
梅王丸香夢
關守のこのねぬるまに東風吹てうめ香おくるつくし路の空[1]
右府植丸
豊算にあらでおちたる冠のかさしもあしき占とこそなれ
花兄
まきばより廣葉にうつる白露の玉うつくしきの色かな
松王丸者 滿麿
かこむ碁のひとつのこうを立しより白し黑との見えにけるかな
降つむは山のはのみと思ひしにけふぞ朝の野邊のしら
寄海戀
戀にしつむ身はなか/\にわたつ海の底ふかしともおもはざらめや
朝時雨
起いつる新の日影のくもりつゝ又はれ行もしくれなりけり
夏凉駒彥
はしゐするかゝみ板さへ凉しくて思はす時をうつす夏の夜
吉祥院天女院鐘[2]子丸
をちこちに響きわたるもことわりや弘むる法の寺の鐘の音
花色定弼
人の世もうつれはかはるいろに香におもひ染てしはなこゝろ哉
タヽキゴロモ定弼
さそひ來る風のちからやよはからんきぬたの音のさかりぬる
橘丸
三芳野の櫻はもなかかへりのはなも千本の社垣の松
花すゝき法恭
あみ引の山の裾野の花すゝきまねくたもとに月そ落來る
源藏夫
花すゝきみたるゝ中に一すちのつるを命のあさかほの花
吉祥院舊宅張輔
わするなと君がうたひし梅の花千とせもにほふ園のはる風
汐待駒彥
に人はなさけを夢の根のながき浪路の汐やまつらむ
無題麿
瓢形の天の川神の八少女のうちふる領巾瑞籬の花
無題
わかきよりのしらかそをしまるれことしもふにくれむと思へば
無題[2]子丸
北風のさむさに襟をつくりみやこをさしてかへる旅人
逢戀壬子
小車のめぐり逢瀨の嬉しさはわたらぬさきに胸や轟ろく
保良
いりあひの鐘はかりかは看經の鉦にさくらの花ぞ散ける
八重秋津子
咲花をちらすあらしの山のはにたちひたる八重霞かな
無題辰丸
なつむしのきらめくかけは石原の石よりむすふ光なるらん
雜煑
悅とひなげきとひとつ雜煑餅つきあひわろき兄弟の中
わかの浦の浪にたくへて絕すしもより來て千代をよぼふ友靏
法性坊秋津子
底淸き橫川の水の鏡にはまさしき影のうつるなりけり
汐待者 滿麿
わたつみの神もこゝろやつくし汐まつ本との名殘なるらむ
無題花兄
夢さへもむすはてあくる短夜はつひとけやすき橫雲の帶
者 滿麿
夢の富士北のはらにや入つらむひと夜におふる松のみどり子
石原の螢者 鳩亭
中空の風に落來るほたるこそほしの化しけむ石原の里
右府麿
籠の內にまつろひにくき山鳩のくもゐを望む羽ふき荒しな
無題定弼
萩の草の音をのこしてたまくらのゆめはいつくにさそふ小夜嵐
流れての名には立とも芳野川いもせのやまの中のちきりは
滿つゝく峰の紅葉の色見れは春にをとらぬ花にぞ有ける
秋津子
これやこの吾しき嶋の大和舞薪の能のためし久しな
直しおく神の御まへの竈ひらかぬと知れるはかなさ[3]
[1]原文は[]の異体字[]ですが、フォントによる表示ができないので、以後すべて[空]で表記します。
[2]「稚」と「雅」のどちらかが誤植のようなな気がしますが、はっきりしません。
[3]字足らず?文字数が合いません。

更新日:2021/02/14