吉祥院天滿宮詳細錄 第九章 p270 - 278
|第九章 (6/7)|
歸るさは鳥羽田に名殘四つ塚のわだちに後を見する雁かね
秋津子
其人をふさまにも咲花はちりかた淸き桐か谷かな
三つ子敬彥
盟ひてし桃の畑とうらうへもはつかしからぬ大和魂
齋世宮のみすかたを口丸
唐ひとの畵にうつしては歸りけりいとうるはしき大和撫子
讒言者 滿丸
すくにゆけば露けしいかにせむぬれきぬ着するうはら枳
無題
行かよふ人めもかれて冬の野のくさばの霜の色そ寒けさ
無題法恭
ならひ住人はなけれと山里も春の鄰と聞は樂しき
寄花別戀
あたにちる花にも心うつろひてわかるゝ今朝の物思ひぞます
別戀活靜
そら音そとよそにいひなす曉にふしてひつらき夕つけのこえ
無題定弼
飛ほたるおもひやいかでかくれぬのあしのよな/\もえてみゆらん
覺壽
別れ路の老のくり言もくけむ樹なみたも珠數につなぎそへなむ
汐待秋津子
速船眞揖しけぬきやめしとやあらそふ風も心あるかな
三つ子西麿
同じ種を三株うゑにし撫子もことなる花の咲ましりけり
無題定弼
夕くれの心をとめてきを鹿もみ山のおくに啼て侘らむ
無題無名
神もさぞ心ときくややめてつらむとしのうちなる梅のはつ花
麿
姬すゝきいたくな打そ秋風のはゝその森の竹の下
定弼
眞砂地のしもゝ幾重か敷たへのころもで寒し庭の月影
法恭
冬の夜は鷄も時をやまちつらんはつ音ののちも幾夢か見つ
春風不分所定弼
玉鉾のみちある御代の春かせはいつくの里かいたらざるへき
源藏西丸
築地こし莟の花を手折しはこぬ人の爲か嵐いとふか
依花待人
櫻花うつろふ色そ憐なるかならず人をまつとせのまに
麿
わらへ等の足もしどしとろに奪ひあふて爭ひやふる舞車かな
者 滿麿
鬼住し羅城はしらずつくかねのしゆもくもつなの力かるらん
景常
春の日の長閑さ見るや露なからたるも靜けき靑柳の糸
鐘聲日示
入相のかねに紅葉のちるなへにうら悲しくも秋そくれゆく
山家月
𩛆てみぬ谷のあなたの丸木橋こよひの月に渡りきにけり
ほとゝきす今の一聲山彥のことふるかたを行衛ともせむ
寫畵橘丸
畵たくみもきぬにうつさんくらゐ山つらなる枝のもみち葉の色
朝落葉景常
落しきて今朝は錦にまかふなりよのあらしに散しもみぢ葉
今日都を離れてなつかしくまゝ重寬
またこむと思ひしことの皆けれは如何に別れを神にまん
義雄
をしめとも風のさそへはちりはつる色香はかなき花の朝寄
春寒みかとかさす我そてのにほふやむめの花に有ける
義雄
時雨する絹笠山のより風のさそひて降紅葉哉
寄關戀
ちきりてもかわるならひにあふさかのせきの秋風ふきやすきかな
梅王松王香夢
二木にし置ぬる露も深綠すゝしき色をいつれとか見む
無名
龜濃尾の山のいわねを留て落るたきのしら玉千代の數かも
櫻丸香夢
九重の春日めかれぬ櫻木もみ山の風はのかれさりけむ
麿
いざ友よいそかまし山の名の嵐に白くちりて見ゆれば
覺山
さかしらの世の人ことの葉末にも露の宿りをしるよしもかな
廟櫻重義
天みつる神の御園に咲花はちきの春とてあかす詠めむ
見るまゝにすたく螢はながれ藻のそこにもてらす宇治の川つら
七十賀者 滿麿
時來れはむくつけなから堤畑こゝろの花の咲もちつゝし
來不三留戀
待えしをあなやむなしくからころもきてかへりたる人そ都禮那支
晴從
よはの雨の餘波を見せて山に一筋落るたきのしら糸
行路霞元衡
幾さとをかけて霞の引やらんゆく方さへも見へぬ斗りに
冬月定弼
ふくる夜に霜置わたす眞砂地とみちてさえ行月そ見にしむ
久方の月の水もつうり畑はもる身もすゝし夏のよすから
礿花正文
昨日までしたひし花のうつし繪をけふさくいろにくらへてぞみる
挿頭葵
千早ふる神の御國の葵くさかさすは加茂の○あれやけり
定弼
ゆく春もしはしはよとめやまふきのはなにしからむ井手の玉河
景常
方の山にも人やすみ竈のけふりは雲と立のほりつゝ
暮秋定弼
露は霜に結ひかへてやいつしかといろの千種もうら枯て行
法恭
はる風のわたれば諏訪の湖の氷の橋もたたやしつらん
照信
淀川の水はあせ行夏のよもめくるにはやし月の車は
披書定弼
よみかへすふみの卷き/\なかりせはぶむかしの人にあはしや
元日
○と國も照すみ久にの御光りははるた都山のあさひなりけり
祀善
いや高きみいつとともに百春も千はらも薰れ神垣のうめ
歸雁定弼
こし路にとかへるつはさのはるかにて雲にゆく雁の一つら
聲つきて今日にあふひのうひな草とりとりかさす神の宮月
山鹿定弼
いつくにかこゝろとめましみ山にもをしか鳴なる秋のゆふ暮
咲梅のかをりをとめし袖のうへにあやなく花の散かゝりけり
山家月
假そめの柴のいほりに年をへてことしもみつる秋の夜の月
きくは殘れるまゝに匂ひけり霜いたゝける身をいかにせん

更新日:2021/02/13