○ | 詠翫菊延齢和歌 | 正六位下太宰大典 | 平朝臣正文 |
| あきことに さくとみしより 手に摘て 老ぬくすりの 白きくのはな | |
○ | 詠春風かをる | 同前 | 平朝臣正文 |
| ふくからに 野山の雪も かつ消て よもに長閑き 春のはつかせ | |
○ | 題不知 | | 詠人不知 |
| 三千とせに なるてふ桃の ことしより はなさく春に あいにけるかな | |
○ | 右府公を | | 保良 |
| おもひきや なれし雲井を 跡に見て 入さの月の 船出せんとは | |
○ | 右府公を | | 飯足 |
| くもりなく てる月影も いかにせむ 今むら雲の かかりそめては | |
○ | 右府公を | | 秋津子 |
| 咲みてる 思いや天に けふるらん きり島山に もゆる丹躑躅 | |
○ | 吉祥院聖廟 | | 秋津子 |
| あかねさす 日影において 天満る 宮み久しき 朝ぼらけかな | |
○ | 吉祥院聖廟 | | 口麿 |
| 荒御魂 いつき鎮めし 光そと いまの世までも 仰ぐいやちこ | |
○ | 吉祥院天満宮の桜 | | 西麿 |
| けふ来ずは 散なむ花の 真盛を 見るさち給う 吉祥の宮 | |
○ | 梅 | | 道栄 |
| 神のうえに かおりてもちる 白雪の きえぬは梅の 花にぞ有ける | |
○ | 吉祥院天満宮の桜 | | 口麿 |
| 咲出て ここたく人は つどいけり 天満雲と みやしろの花 | |
○ | 梅 | | 西麿 |
| 飛梅の 心づくしも 時を得て おもいのままに 咲におうらん | |
○ | 作道旅客 | | 辰麿 |
| とりあえず 天満御神 うけたまえ 作道ゆく このたびの幣 | |
○ | 石原飛蛍 | | 方卵 |
| つかみとる 宝の山か 石原に 黄金の砂を まけるほたるは | |
○ | 題不知 | | 澄水 |
| 菜の花の 御供の日には とりわけて とうほどにうる 蝶五郎餅 | |
○ | 吉祥院天満宮の花 | | 飯足 |
| 降つもる 雪とも見えつ 雲とみつ げにも自在の 神垣の花 | |
○ | 輝国 | | 獅子丸 |
| 影てらす 国のいさおは 知られけり なみだにかかる 月の御船出 | |
○ | 社頭榊 | | 定勝 |
| とことわに かわらぬ色の 真榊や さかえ久しき 神の広前 | |
○ | 年内早梅 | | 活静 |
| めでなます 神に手向ん 端かきに 来るはるまたで さくやこのはな | |
○ | 桜 | | 一道 |
| さしこもる かたえの桜 さきそめし むくらの門も あけてまちぬる | |
○ | 吉祥院宮聖廟法楽 夕顔 | | 栄堂 |
| わか庵の かきねにはえる 夕顔の 花もてきょうの 幣に捧げん | |
○ | 吉祥宮聖廟法楽 山居春曙 | | 栄堂 |
| 山住の 朝そあくれは 嵐にも かすみて見ゆる 春の曙 | |
○ | 吉祥宮聖廟法楽 晴後遠水 | | 栄堂 |
| けふいくる 晴間を待て ながむれば 空にひとしき 水の色かな | |
○ | 桜 | | 口麿 |
| あたなりと うたわんぬまに 八重桜 花のちれるも 心あるかな | |
○ | 題不知 | | 幸子 |
| 霜ゆきと 千とせの後も かはりねと ふりにける世の なおぞこいしき | |
○ | 鳥羽帰雁 | | 壬子 |
| 夜をこめて 雁は帰れと 今朝はしも 鳥羽田の水は にごらざりけり | |
○ | 白大夫 | | 香夢 |
| ありがたき 君の恵は 九つの 牛のひとつの 毛にも及ばず | |
○ | 梅王丸 | | 香夢 |
| 関守の このねぬるまに 東風吹て うめ香おくる つくし路の空 | |
○ | 右府公を | | 植丸 |
| 豊算に あらでおちたる 冠の かさしもあしき 占とこそなれ | |
○ | 蓮 | | 花兄 |
| まきばより広葉にうつる白露の玉うつくしき蓮の色かな | |
○ | 松王丸 | 判者 | 満麿 |
| かこむ碁の ひとつのこうを 立しより 白し黒との 見えにけるかな | |
○ | 野雪 | | 建道 |
| 降つむは 山のはのみと 思いしに きょうぞ朝の 野辺のしら雪 | |
○ | 寄海恋 | | |
| 恋にしつむ 身はなかなかに わたつ海の 底ふかしとも おもわざらめや | |
○ | 朝時雨 | | 宗勝 |
| 起いづる 新の日影の くもりつつ 又はれ行も しぐれなりけり | |
○ | 夏涼 | | 駒彦 |
| はしいする かかみ板さえ 涼しくて 思わす時を うつす夏の夜 | |
○ | 吉祥院天女院鐘 | | 稚[1]子丸 |
| おちこちに 響きわたるも ことわりや 弘むる法の 寺の鐘の音 | |
○ | 花色 | | 定弼 |
| 人の世も うつればかわる いろに香に おもい染てし はなこころ哉 | |
○ | 擣衣 | | 定弼 |
| さそい来る 風のちからや よわからん きぬたの音の 遠ざかりぬる | |
○ | 松 | | 橘丸 |
| 三芳野の 桜はもなか かへりのは なも千本の 社垣の松 | |
○ | 花すすき | | 法恭 |
| あみ引の 山の裾野の 花すすき まねくたもとに 月ぞ落来る | |
○ | 源蔵夫婦に | | 釼翁 |
| 花すすき みたるる中に 一すじの つるを命の あさがおの花 | |
○ | 吉祥院旧宅 | | 張輔 |
| わするなと 君がうたひし 梅の花 千とせもにおう 園のはる風 | |
○ | 汐待船 | | 駒彦 |
| 行船に 人はなさけを 夢の根の ながき浪路の 汐やまつらむ | |
○ | 無題 | | 辰麿 |
| 瓢形の 天の川神の 八少女の うちふる領巾か瑞籬の花 | |
○ | 無題 | | 建道 |
| わかきより 雪のしらかそ おしまるれ ことしも遠ふに くれむと思えば | |
○ | 無題 | | 雅[1]子丸 |
| 北風の さむさに襟を つくり道 みやこをさして かえる旅人 | |
○ | 逢恋 | | 壬子 |
| 小車の めぐり逢瀬の 嬉しさは わたらぬさきに 胸や轟ろく | |
○ | 鉦 | | 保良 |
| いりあいの 鐘はかりかは 看経の 鉦にさくらの 花ぞ散ける | |
○ | 八重 | | 秋津子 |
| 咲花を ちらすあらしの 山のはに たち迷いたる 八重霞かな | |
○ | 無題 | | 辰丸 |
| なつむしの きらめくかげは 石原の 石よりむすぶ 光なるらん | |
○ | 雑煮 | | |
| 悦とひ なげきとひとつ 雑煮餅 つきあいわろき 兄弟の中 | |
○ | 名所靏 | | 道栄 |
| わかの浦の 浪にたくへて 絶すしも より来て千代を よぼふ友靏 | |
○ | 法性坊 | | 秋津子 |
| 底清き 横川の水の 鏡には まさしき影の うつるなりけり | |
○ | 汐待船 | 判者 | 満麿 |
| わたつみの 神もこころ やつくし船 汐まつ本との 名残なるらむ | |
○ | 無題 | | 花兄 |
| 夢さえも むすはてあくる 短夜は つひとけやすき 横雲の帯 | |
○ | 松 | 判者 | 満麿 |
| 夢の富士 北のはらにや 入つらむ ひと夜におふる 松のみどり子 | |
○ | 石原の蛍 | 判者 | 鳩亭 |
| 中空の 風に落来る ほたるこそ ほしの化しけむ 石原の里 | |
○ | 右府公 | | 口麿 |
| 籠の内に まつろいにくき 山鳩の くもいを望む 羽ふき荒しな | |
○ | 無題 | | 定弼 |
| 萩の草の 音をのこして たまくらの ゆめはいづくに さそう小夜嵐 | |
○ | 同 | | 定勝 |
| 流れての 名には立とも 芳野川 いもせのやまの 中のちぎりは | |
○ | 同 | | 建道 |
| 満つづく 峰の紅葉の 色見れば 春におとらぬ 花にぞ有ける | |
○ | 同 | | 秋津子 |
| これやこの 吾しき島の 大和舞 薪の能の ためし久しな | |
○ | 扇竈 | | 夜半亭 |
| 直しおく 神の御まえの 扇竈 ひらかぬと 知れるはかなさ[2] | |