吉祥院天滿宮詳細錄 第十二章 p458 - 466
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三善淸行略傳

姓は三善諱は淸行字は耀世に三耀といひし人なり三善の姓は百濟國王の裔也、 此人ひとゝなり忠正朋にしてよく衆藝をかね卜曆數に又長し位參議に至り給ふ菅原眞、文屋の康秀の貞文等と同じう朝につかへおはしましき。
昌泰三年醍醐天皇の御爲めに史記を講し給ひぬ時に菅原の右相として幼の主につかへ姦侫の臣にならぶ淸行朝臣數をせし博學の人なりければそのとし十月十一日 或說廿一日 菅に書を奉りて明年辛酉は天かはり改るべき年なりは儒家より起て今槐位にのぼり給ひ其寵榮吉備のほか又かくの如きのためしなし、 願くは官を辭して退き其災をのかれ給へかしとぞ申れけり 見本朝文粹干第七も此いさめをかしこきすぢには思ひ聞へさせ給ふめれと既に其位に居其つかさに化し給ては只偏に君に忠あり民を安くせん事をのみ本意(ほゐ)におぼして御身一つの安危はあながちにはかり給はる理ありて御受用なかりしにや朋哲の御心はかり難し淸行の先見の明もあり、 ありがたき事になん侍る。 昌泰四年正月二十日菅おとし五十七にして無實の讒にひ太宰の權の帥にされ給ふべきに定りにければ左の御悲にたへず一首の歌に千般の恨を亭子院へ奉り給ふ。

なかれ行くわれはみくづとなりぬとも
君しがらみとなりてとゝめよ

上皇は菅のことを聞し召され、みかどをいさめまいらせて左を止めんとおぼして同月晦日朱雀院より內裏へ入らせ給淸凉殿のあたりにて菅根朝臣をづけて此由かくと申せと仰せられけれども菅根の菅をかたぶけなんとの計ごとに組し又昔上皇庚申の御にひありて菅につらを打れまゐらせし(江談打子見たり)うらみ深くしてかくとも奏せざりければみかと出御ましまさすして終に御對面なかりきその折ふし殿上に人もなくて法皇は久しくたゝすませ給へども帝の御入らんもなかりしかば多々御憤を含み御なみだにくれてぞむなしく歸らせおはしましけり此時淸行が暴威をはゞからず朝庭にまふし菅族及び其門生を禁錮せし事を解んとしけれどもかなはざりき。 二月朔日終に都を出て筑紫におもむかせ給ふ年久しく住馴給ひし紅梅殿を立出させ給ひしかは常に愛し給へる梅を御覧して御名殘をおしませおはしましゝ御歌あり

こちふかはにほひをこせよ梅の花
あるじなしとて春なわすれそ

東風吹かせの便を以て此梅飛去て配の庭におひたりけりされば夢の吿ありて、折人つらしと惜まれし寄府の飛梅これなり。
洛の堀川に人屋あり厲鬼妖ひをなす人住事あたわず淸行その宅に坐しけるに厲鬼おかす事なく跡をひそめさりたりとなん。
延喜十四年四月二十八日從四位上式部の大輔三善朝臣淸行封事を上るとて封奏をけり其略に云 一には節儉をあがめ驕奢をいましめ給へと奏しける、 二には大學生徒の料を加へん事を奏しけり、 三には事の員を增せん事を奏しなり、 四には諸國の僧徒の濫惡を禁せん事を奏しけりとかや。 當時紀の長谷雄大藏の善行と云人あり儒門の魁にして名聲朝廷に冠たりけるに淸行これをものゝ數ともせられざりけり、 誠には千歲の騏驥たれば德量才能共に衆人に越けりとなん世に善相と稱す其裔は爲政、爲康等也。
御世におはしましける時當院を建立し第八の子淨藏貴を開山と仰き給ひけり子の廟此の地におはしましけり。
天承元年五月十八日書寫之竟』
諫議大夫 監中殿 式部大輔 善相 傳敎入唐
延曆二十三年七月 歸朝同廿四年元祿四、八百七十八年[1]及干元祿四、八百七十七年[1]
吉祥院建立 大同三年六月
天神勸 四年元祿四、曆八百八十年[2]
吉祥天女開帳
慶安二[3]庚寅夏百日、天和二壬戌五月ヨリ百日兩度開帳三ケ村中司之天和開帳時於天女右脇社家伊豫トキ
觀音北町年寄社家之也、 貞享十五年戍[4]八月社家伊豫訟ノコト吉祥天女及天滿爲ルコトヲ五條殿之支配前田安藝守三ケ村支配而許五條殿社家伊豫ルコトヲ支配
天滿宮制札者稻葉丹後守ヨリ之。 吉祥天女堂及天神之社修營元祿四年辛未四月、竟同年四月廿一日、天神上宮自十三日天女開帳也 六月三日閉帳也  此時緣起  云天神作觀音有三十三體其中左右觀音 左觀音在五條殿之庫 右觀音在三善院 五月六日使乾吉郞左衞門吿伊豫旡左右觀音 七日社家伊豫則乾吉左衛門ヲソ左右觀音之義帳觀音慶安二天和二元祿四年也 已上』
右附記は元祿四年以後に記入せしものならん。
(九)吉祥天女院調査提出
昭和三年十月一日付募集 東京小石川區林町二六望月方 佛敎大辭典編纂 調査提出事項左の如し。

『提出者 吉祥院天滿宮社掌右[5]原定正
寺名  吉祥院又ハ吉祥天女院
在地 京都府紀伊郡吉祥院村大字吉祥院小字宮ノ前
舊地  同
宗派名 本、天台宗 今名義淨土宗
寺格  三御靈
山號  南北山海中寺
稱  吉祥院天女堂
舊名  吉祥院
創立年代 大同三年六月
創立由緖 菅原淸唐使として入唐の際海難にあふ。 傳敎大師大吉祥天女を祈りて無事を得たり、淸卿歸朝後自天女の像を刻み庭上に一宇を建立し傳敎大師とはからひて像を安置す。
中興年代 菅と共に一時衰ふ。 豊臣秀吉より大いに衰へ。 神佛混淆廢止より一層大衰す。
中興事蹟 菅家の盛衰と當吉祥院天滿宮の盛衰と事を同くす。
開山  菅原淸卿と傳敎大師
開基  菅原淸卿建立 傳敎大師開基
特別保護建物(物名、指定年月) なし
國寳(品名、指定年月) なし

本寺沿革槪要 菅原淸卿は天女の像を自ら彫刻し傳敎大師とはからひまし/\て當菅原院庭上に一宇を建立し像を安置し吉祥院と號し國家鎭護の祈禱とし又以て菅家守護の本とし給ふ。 時は大同三年六月なりき。 其後每年春秋に大法要を行ひ給ひしが淸卿薨後御忌日なる十月十七日を以て每年大法會を修せらる。 まして淸卿生前自像を自ら刻みて共に安置しあればなり。 菅是善卿八月三十日當地にて薨じ給ひしが命に依り元慶五年十月廿一日より四日間大法會を修せられ又母公伴氏の御言ありし十一面觀世音の像も成就し給ひしかば當院に安置して開眼供養せらる時に菅三十七歲なり此事菅家文草吉祥院法華會願文に明かなり。 其後菅自ら是善卿の像を刻みて當院に安置し給ふ。 四年朱雀天皇の勅により當吉祥院天滿宮を創祀せしより每年二月廿五日及十月十三日を以て大祭法會を行ひ來りしが豊臣秀吉當領地及御朱印其他部取り上げしより大衰し名義上寺にして事實吉祥院天滿宮と同樣にして祀る。

本寺緣起幷參考書類
吉祥院天滿宮緣起、畿歷覽記、山城名志、吉祥院村三善院卷物、傳敎大師傳、菅家傳、拾芥抄、雍州府志、天神記圖繪、大日本地名辭書、扶桑京華志、山城名跡御志、つきねぶ、京羽津根、國花萬葉記、北野緣起、天神古事卷物、年中行事、名都鳥、都名圖會、京師覽集、日次紀事、北野誌、京都聚書等
年中行事と主要法要 吉祥院天滿宮の年中行事と等し。 十月十三日御例祭の節には當村の寺僧本年より大般若を修む。』
[1]延暦23年(804)から元禄4年(1691)まで足掛け888年、延暦24年(805)から元禄4年(1691)まで足掛け887年です。記述と10年合いません。
[2]承平4年(934)から元禄4年(1691)まで足掛け758年です。記述と122年合いません。
[3]慶安2年(1649)の干支は己丑で、慶安3(1650)の干支が庚寅です。「慶安三」の誤記と思われます。
[4]「戊」の誤記と思われますが、原文通り表記します。また貞享は5年までしかなく、貞享5年(1688)の干支が戊辰です。「貞享五戊辰」の誤記を思われます。
[5]「石」の誤植ですが、原文通り表記します。

更新日:2021/02/20